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今、人生初の完全体を目前にしている。
本能すらも、がむしゃらに突っ込む提案を止め、ただひたすらに隙を狙う。
じっとりとした汗が全身から吹き出している。
格上というのはこれほどにも圧倒的だったか、数十日前の成長期の頃を振り返る。
しかし、思い起こせるのは、死にたくないと願ったあの一時だけ。
最近、気づけば旅の相方であるパタモンを前に、邪な考えを抱いている自分を嘲笑う日々が続いていることを踏まえれば、きっとこんなことを考えている理性はもうほとんど残ってないのだろう。
このまま僕が消えれば、パタモンはこの完全体が守ってくれるに違いない。この敵はパタモンには敵意を向けていないのだから。
しかし、本能にその考えをすぐに打ち消される。
巨大な腕が僕に伸びてきた。捕らえられれば、いとも簡単に握りつぶされそうだ。
間一髪で避け、腕は空を掴む。
ふっと緊張を緩めた矢先、腕はすぐさま方向転換して僕を凪払う。
受け身もとれないままの体で大地を削る。
成熟期との戦いばかりで慢心していたことを思い知った。打撃さえこの威力とは。
背中から滲み出る血のにおいが、本能をより活性化させる。
パタモンは、あんなに小さな体でこの巨大なデジモンに立ち向かっている。
ダメージは通ってないようだが、それでも理性が気力を奮い立たせるには十分だ。
どう戦うべきだろうかと思案する。
ただ突っ込んでも腕に跳ね返されるだけだろう。
あの様子では鉄球もダメージをあまり見込めない。
たとえ羽を奪えたとしても、屈強な体が残っている。
これといった打開策は浮かばない。
あるとするならば一つだけ。
駄目だと思いつつも、僕の意志はいとも簡単に折れた。
「デクスドルガモン!」
僕の名を呼ぶ悲鳴が聞こえた。
口の中に広がる血のにおいが鼻腔をくすぐる。
フレームごと噛み砕いて、電脳核を呑み込む。幾度も味わったが、この感覚は至高のものだ。
そして直感する。僕は逆転のカードを引いた。
「貴様……!」
鳥人は憤りの表情を見せる。
僕には理解できない。なぜこいつに肩入れするのか。
『だってこいつは“非常食”だろう?』
鳥人は僕を鋭く睨みつけ、握った拳を振るう。
先程までは脅威だった剛力も、今は驚くほど簡単にかわすことができる。
「許せん!」
怒涛の連続パンチも、避けることに支障はない。すり抜けて、屈強な肉体に傷をつけることも。
数度切り傷を刻んだところで距離をとった。
僕自身の体など簡単に押し潰せるだろう、今までより遥かに巨大な鉄球を放つ。
これならば鳥人など一溜まりもないだろう、とほくそ笑んだ。
しかし、渾身の鉄球はなぜか四つの輪切りにされ、それぞれが鳥人によって殴るなり蹴るなりされてこちらに飛んできた。
元々が巨大なだけあって、輪切り鉄球は一つしか当たる路線にないのが幸いだ。
回転がかかった輪切り鉄球を鼻先の刃で迎え撃つ。
金属が金属で削られる音がする。削られているのは鉄球の方。
力ずくで軌道を変えれば、僕の体の下を過ぎ去っていった。
メタルメテオが使えないのは厄介だと作戦を練る。輪切りにされた技が何かわからないから、迂闊に動くことはできない。
鳥人が羽ばたく。
何気ない仕草だが、勘が危険信号を告げる。
羽先が裂けた。
鋭い風、あるいは見えない刃といったところか。羽ばたきによって生まれるのだから風の方だろう。
メタルメテオはあれに裂かれたのだ。
となれば近づいて電脳核を抉り取る方が簡単だろう。
決めたが早い、僕は鳥人を中心に輪を描いて徐々に近づいていく。刃の範囲からすぐに外れるのだから、これならばおそらくは平気だ。
そして、トドメの錐揉み突進。目標はもちろん電脳核。
テクスチャを剥ぎ、フレームを裂き、データの血を浴び、電脳核を噛み砕く。
全身で貫いた鳥人の体は、中心を為す物を失って、何もかもがデータの塵へとその姿を変える。
じっくりと完全体の電脳核を味わう横で、パタモン、と途切れ途切れに呟くような声がした。
途端、何か訳の判らない物に襲われる。
もやもやした、気持ちいいとはお世辞にも言えない何か。
……心当たりなんてあるわけがない。
とすれば、さっきの電脳核だけではお腹が満たされなかったのだろうか。
きっとそうだ。そうに違いない。
さして遠くない方に餌がたくさんある。
この姿なら、翼で八つ裂きにしてもいいし、鼻先の刃で電脳核だけ抉ってもいい。尾に纏めて刺しておいて、後で一気に食べるなんてのも良さそうだ。
まあ、どうやって殺そうが、電脳核さえ食べれれば同じか。
そうと決まれば早速行こう。
想像しただけで涎が止まらない。
あとがきんちょ
ここまで読んでいただきありがとうございます。一部の方にはTwitterなどでお世話になっておりますノダッチです。乗るしかない、このビッグウェーブに!…なーんて言っていた時から一年以上が経ち、ようやく拙文を公開にこぎつけました。
この設定は半年くらい前に思いついた物です。完成させようとしたきっかけはラジオ。
ラジオの力ってすげー!
ノリで筆を走らせていたら味気ない文章が出来上がっていた訳ですが、どうにか自分で納得できるラインに達しました。あれ、どこかから勉強しろって声がする…。
それにしてもデクスドルグレモンかわいいですよね。
尻尾振って舌を犬みたいに出してもう本当にかわいいです。最高。(ゲームの話)
ドルモンからペットにしたいです。もふもふ。
飼うには餌の問題がありますけどね。
あとがきからもほとばしる文章の下手っぷりを露呈させる前に去ろうと思います。機会がありましたらまたここに投稿しようかと思っていますので。
ノシ