ものだねっと

■衝撃により作業>>>>ゲームと化した。 ■FGO:ネロちゃまは万病に効くどころの話じゃなかった。

死の輪舞曲は駆り立てて 1

(投稿:2012/10/28)



 デジタルワールド、それはデータからなる生き物、デジモンが住まう弱肉強食の世界。
 粛正という名の大量虐殺も、話題にもならないほど昔の話と化しており、その根源たるXプログラムは既に姿を消した。
 しかし、X抗体は電脳核内のデータを引き出す特殊なプログラムとして未だに存在している。
 デジモンは昔も、そして今も、強さを求める生き物。
 産まれながらにして、それを持つデジモンである僕は、つまるところ狙われる対象なのだ。
 僕をロードしてX抗体を手に入れ、同じ世代のより高みへと登るために――。


 デジタマが形を持って現れ、命が始まる、全てのデジモンの故郷かつ神聖な場所――始まりの街。幼年期なら誰であれその庇護を受けて育つことができ、成長期になれば、場所を後続の生命に譲るために旅立たなければならない。
 成長期に進化した時、溢れんばかりの力と沸き立つ好奇心が体を突き動かし、新天地に夢を見た。世界は、それはもう素晴らしい輝きに満ち溢れていた。
 でも、すぐにそんな輝きは失われ、いつ来るかもわからない強大な敵に怯え逃げる日々へと変わった。
 いくらXデジモンと言えど、世代の差は簡単には埋まらない、という事実が何度も突きつけられる。
 これから先もずっとつきまとうであろう未来を想像して、幾度となく僕はぶるりと紫の体を震わせた。
 デジモンが強くなるには、戦いに勝ち、相手をロードしなければならない。進化はその結果が如実に現れたものだ。
 でも、僕は一度たりとも勝ったことがない。逃げてばかりだ。だからこんな僕は、進化できたとしても、進化したいデジモンワーストランキングのトップ三本指に入るであろう、ヌメモン辺りが妥当だろう。
 それでも僕は汗を滲ませながら荒野を逃げる。足はもつれ、息はあがる一方だが、足を止めることは許されない。なぜなら僕は命懸けの鬼ごっこの真っ最中で、止まったら最後、ロードされて一巻の終わりだからだ。
 チラリと後ろを振り返れば、まだ鬼はスタミナ切れから程遠くかつ、差が徐々に縮まっているのがわかった。
 と、振り返ってしまったせいか。こんな状況で自分の足に引っかかって転ぶなど、なんてありきたりな展開なのだろう。
 鬼はしめたとばかりに僕を飛び越えて進行方向を塞き、口端を釣り上げる。
 淡い期待を胸に持ち合わせていたが、当たり前のように僕の前にはヒーローは現れなかった。
 現実とはこんなものだ。データの世界で現実というのもおかしな話かもしれない、と頭の隅で思う。
 鬼――白い体に青い縞のはいった巨大な四つ足の獣デジモンが、口元に青白い炎を湛えて一歩、また一歩と近づいてくる。
 僕は酷使した足で立ち上がることができない中、必死に腕で足で体を引きずって後退る。
 距離をとろうとする努力も虚しく、微々たる距離は易々と詰められ、炎がいとも簡単に僕を焼き尽くそうと迫ってきた。
 熱さに顔が歪んで、意味も成さないことは思考を端を掠めたものの、とっさに腕で頭を庇って視界を閉じた。
 突如、成長期に進化した時のように力が湧いてくるのを感じる。これが火事場の馬鹿力とでもいう物なのだろうか。今までの疲労も気にならない。
 まとわりつく青白い炎を振り払い、先程までは重かった足でしっかりと立ち上がり、さっきよりも小さく見える獣を睨みつける。
 獣の顔はなぜだか滑稽にもほうけているようにも見えた。
 今まで身を潜めていた闘争心が、これはチャンスだと耳に囁く。本能とも言える部分が攻撃の指示を出す。
 これに従って鉄球を撃てば、いつもよりも巨大になって、獣を襲う。いつものように牽制などというちんけなモノではなく、しっかりとしたダメージを与えられるモノ。
 獣はまともに鉄球を顔面に食らうが、皮の厚さが特別仕立てなのか、あまり効いていないようで、苛立たしいとでも言いたそうな表情を向けてきた。
 また青白い炎が獣の口から放たれる。
 大地を蹴って飛翔し、その攻撃を避ける。僕の小さな翼にそんなことができたろうかと気にする暇はない。
 仕返しの意を込め、続けざまに先の鉄球を放つ。しかし、どれもいきなり現れた氷の壁に阻まれた。これも獣の技なのだろう。
 ならば、と盛大に力を込めた鉄球を放つ。僕の体と同じくらいに膨れ上がった鉄球は、同じように出現した氷の壁に衝突した。
 今度は鉄球が競り勝つという確信と共に、氷の壁が砕け散り、欠片となる。
 そのまま鉄球は獣を跳ね飛ばした。好機とみた僕は羽を畳んで追撃の体勢に移る。
 獣は頭を振り、立ち上がろうとしたところで僕渾身の頭突きを食らった。
 またも跳ね飛ばされた獣は伸びていた。
 自分の力で撃退できたことにほっとし、ようやく気づく。ここまでの流れは到底今までの僕では成し得ないことだ。
 姿を確認すれば、鉄の手足と青い包帯に包まれた以前よりも大分大きな翼。ショートしたように火花を散らすコードが尾先からはみ出ている。
 紛れもなく僕は別の姿になっていた。進化していた。絶対にヌメモンではないということは技からも姿からも理解できた。
なぜ進化できたのかはわからないけれど、今になって進化の喜びは全身を駆け巡る。
 目前の気を失った獣に勝利を雄叫び、さも当然のように腕を突き立てて、獣の電脳核を抉り出す。
 今までずっとこれを求めていたかのように、腹を極限まで減らしていたかのように、涎が口から溢れ出る。一目見ただけで目が眩む。口に放り込んで呑み込んだ途端、得もいわれぬ高揚感で満たされた。
 次いで湧いてきたのは、例えるならば麻薬が切れた時のような欲求。それが僕の中をどんどん占めていって、遂には臆病者の僕を追い出した。
 獲物を求めて飢えた獣のように気配を探る。進化してから、電脳核の場所だけは正確に捉えられる。
 幸いと言うべきか、X抗体を狙う成熟期達は相変わらず僕を追いかけていた。恐らくは戦闘の気配を察知して、漁夫の利を狙って来たのだろう。
 そんなことはどうでもいい、と舌なめずりをして、涎を拭うこともせず、成熟期達を迎え撃つ。
 集団で戦えば確かに相手が有利なのだろうが、僕にはもう、間抜けに餌が集まっているようにしか見えなかった。
 電気を帯びたすばしっこくて丸い餌、鼻先に巨大な角を持った鎧を背負う餌、先の獣よりもはるかに小柄な餌。
 尾からはみ出たコードの火花がより強く散る。振り回せば攻撃性を持って火花が襲いかかり、鈍重な鎧の動きを止める。鋭い爪は強力な武器となり、容易く小柄な餌を引き裂く。餌がデータの塵と消えないうちに電脳核を貪り食らい。
 僕の青い体は返り血で赤黒く染まっていく。
 餌の悲痛な叫びが耳に響く。逃げるなんて許しやしない。
 すばしっこい餌を捕らえ、データに還して、電脳核を回収する。
 鎧が震えながら後退るのを見ると、愉快な気分になった。これが僕を今まで追い詰めてきた奴らの気分か。
 一歩近づけば一歩下がる。びくりと巨体を揺らす。
 満喫したところで一気に近づいて、鎧のないところに腕を刺す。
 呆気なく消え去る巨体に見向きもせず、電脳核を口に入れる。また高揚感で満たされた。



→続く(http://blogs.yahoo.co.jp/townnoda/14372738.html